2009年4月にメキシコで発生が確認された、ブタに由来する新型インフルエンザは、たちまちのうちに世界中に広まりました。

わが国でも、2009年5月に感染者第1例を確認してから感染は確実に拡大しており、とくに、この秋から予想される感染拡大について、医療現場のみならず、各方面において備えが急がれています。

私たちは、それぞれの職域において、新型インフルエンザの対策推進に関わりながらも、一般の方や、医療従事者からの質問に対応しながら、より良いかたちで情報を提供するためには、どのようにしたらよいかについて、互いに情報交換を重ねてきました。


概 要

インフルエンザ(Influenza)とは

インフルエンザ画像インフルエンザウイルスによる急性感染症の一種で流行性感冒、流感ともいいます。2008年頃からインフルという略称がテレビ・新聞などのメディアによって使用され始めました。発病すると、高熱、筋肉痛などを伴う風邪の様な症状があらわれます。急性脳症や二次感染により死亡することもあります。

近年の状況

インフルエンザとヒトとの関わりは古く、古代エジプトにはすでにインフルエンザと見られる病気の記録が残っています。最も重大な転機は1918年から1919年にかけて発生したスペインかぜ(スペインインフルエンザ)の世界的な大流行(パンデミック)です。これは規模、死亡率の点で強力で、感染者数6億人、死亡者数4000万~5000万人(さらに多いという説もある、8000万人)にのぼり、第一次世界大戦終結の遠因ともいわれています。スペインかぜ以降も、インフルエンザは毎年継続して感染流行を起こしています。さらに数年から数十年ごとに新型のヒトインフルエンザの出現とその新型ウイルスのパンデミックが起こっています、毒性の強い場合は多数の死者が出ます。

近年は新型ヒトインフルエンザのパンデミックが40年起こっていないこと、死亡率の減少などから「インフルエンザは風邪の一種、恐れる病気にあらず」と捉える人が多くなりましたが、これは誤解です。インフルエンザの症状はいわゆる風邪と呼ばれる症状の中でも別格と言えるほど重く、区別して扱う事も多いです。パンデミック化したインフルエンザは人類にとって危険なウイルスです。

日本などの温帯では冬季に毎年のように流行します。通常、11月下旬から12月上旬頃に最初の発生、12月下旬に小ピークです。学校が冬休みの間は小康状態で、翌年の1-3月頃にその数が増加しピークを迎えて4-5月には流行は収まるパターンです。

症 状

風邪(普通感冒)とは異なり、比較的急速に出現する悪寒、発熱、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛を特徴とし、咽頭痛、鼻汁、鼻閉、咳、痰などの気道炎症状を伴います。腹痛、嘔吐、下痢といった胃腸症状を伴う場合もあります。
合併症として肺炎とインフルエンザ脳症があります。


主症状

インフルエンザ症状



備 考

なぜ、インフルエンザはこわいのか?

毎年、冬になるとインフルエンザを危倶する声があちこちで聞かれます。インフルエンザもインフルエンザウイルスによっておこるかぜの一種ですが、なぜ特に「インフルエンザ」が恐れられるのでしょうか?インフルエンザ画像

インフルエンザが恐れられる理由のひとつに、ウイルスの増殖スピードの速さがあげられます。約100万個のインフルエンザウイルスが集まると発病するといわれていますが、たった1個のウイルスが体内に侵入したときから、100万個に達するまでには24時間程度しかかからないのです。

もうひとつの理由は、なんといっても症状の重さです。ふつうのかぜならば、流行しても生命に対する危険はあまりありませんが、特に高齢者の場合、インフルエンザから肺炎などの重大な病気を併発することも多いのです。その結果、国内で年によっては1000人以上の死者が生じてしまうこともあります。

このように恐ろしいインフルエンザですが、ふだんから十分な体力の維持と健康管理を心がけていれば防ぐことも可能です。また、もしかかってしまったとしても、比較的軽い症状でおさえることができるでしょう。

このホームページをよく読んで、インフルエンザを正しく理解し、対策を万全にして冬を乗り切りましよう。

▼インフルエンザは、大きくA型・B型・C型の3つの種類に分けられます。ただし、C型は感染しても、それほど症状が重くなることはなく、大きな流行もありません。一般に「インフルエンザが流行する」といわれるのはA型かB型です。

そして過去、世界的な大流行を引き起こしてきたのは、ほとんどがA型インフルエンザでした。

世界中にその名をとどろかせた「スペインかぜ」も「香港かぜ」も「ソ連かぜ」も、すべてA型インフルエンザによるものでした。1918年に流行した「スペインかぜ」では、なんと世界の全人口の半数がかかったといわれています。

このように大流行となる原因は、インフルエンザウイルスが「変身」する性質を持っているからです。その結果、同じA型でもそれまでのウイルスとは異なる性質を持った新種のウイルスが毎年のように出現しています。わたしたち人間には、この新種のウイルスに対して免疫機能が働きません。そのために新しいインフルエンザが流行するのです。

インフルエンザは空気感染する

インフルエンザウイルスは空気感染で流行します。インフルエンザに感染した患者さんが、会話やせき、くしゃみなどをする際に、小さな飛沫と一緒にウイルスが体外に排出されます。周りの人がこれを吸い込むことによって、感染するのです。小さな粒子は、長い時間空気中を漂っています。そのため、学校や病院、電車の中など、たくさんの人が入れかわり立ちかわり集まる場所では、多くの人たちに感染しやすくなります。

また、衣服や食器、ドアノブなどについたウイルスが手につき、目や鼻、口に触れることによってうつることもあります。どこでウイルスを身のまわりにつけてしまうのかわかりませんので、人ごみへ出入りする際には、特に注意が必要です。

急激な高熱・頭痛・筋肉痛

インフルエンザウイルスは、体内に侵入してから発病までに、1~2日間の潜伏期があるため、はじめはほとんど症状がありません。

しかしいったん発病してしまうと、2、3日のうちに38~40℃の高熱が出て、激しい頭痛や筋肉痛などにみまわれます。他にも、悪寒、全身のだるさ、関節痛、食欲不振などの強い全身症状のほか、嘔吐や下痢などの消化器症状が出ることもあります。

これらの症状から、一見して重症という印象を受けますが、安静にして養生すればたいていは約1週間でおさまります。もしそれ以上続いた場合には、肺炎や気管支炎などの合併症を併発している可能性が高いので、すぐに医師の診断を受けてください。

特に怖いのは肺炎などの合併症

インフルエンザに感染しても、たいていは約1週間で症状がおさまることは、前に述べました。しかし肺炎などを併発する重症の場合には、処置が遅れると死に至ることもあります。

以下のような症状が見られたら、合併症を併発している可能性が非常に高いので、早急に医師の診断を受けてください。

①高熱が5日間以上続く

②激しいせ吉やたん、呼吸困難などが顕著になる

このような重症に特に注意しなければならないのは、体力や抵抗力の弱い、乳幼児や高齢者です。乳幼児は脳炎、脳症を、高齢者は肺炎などを起こすことがあります。高齢者の場合には感覚の衰えのために発熱などの自覚症状が出ないケースもありますので、本人はもちろん、周囲の者も注意を払う必要があります。

早く治すには:見極めが肝心

インフルエンザを早めに治し、重症化させないためには、ふつうのかぜかインフルエンザかを見極めることが大事になります。ふつうのかぜでは、特に鼻腔がおかされ、鼻水や鼻づまりがよく起こりますが、他に目立った症状はあまりなく、熱も37℃台でおさまります。

一方、インフルエンザの場合は、鼻水などはたいしたことがないのに、いきなり高熱が出て、頭痛、関節痛、筋肉痛、全身のだるさなどに襲われます。

麻黄湯の作用

インフルエンザウイルス感染のプロセスは、ウイルスの細胞膜への吸着(細胞膜上のレセプター[シアル酸]の認識と結合)によって始まる。
吸着後、ウイルスは細胞内に侵入してのエンドソームと呼ばれる小胞に入り、小胞内の弱酸性環境下で膜融合活性を示し、エンドソーム膜とウイルス膜が融合する。
ウイルス内部のウイルスゲノム(遺伝子複合体[一RNA])が細胞質内へと放出され(脱殻)、核内に移行し、遺伝子の複製を開始する(複製)。mRNAの合成(転写)から、ウイルスの膜蛋白質(M1)や膜糖蛋白質(HA、NA)、核蛋白などの合成が行なわれ(蛋白合成)、種々のウイルス構成要素が集まり子孫ウイルスが出芽という形式で細胞外へ放出され、次の細胞へと感染する(放出と遊離)。この一連のプロセスのどの部分を抑制してもウイルスの抑制は可能である。

麻黄湯(杏仁、麻黄、桂皮、甘草)は、その種々の作用により症状を軽減し回復を早めていると考えられるが、抗ウイルス作用も考えられている。
構成生薬の麻黄による「脱殻」の抑制 1)、桂皮による「膜蛋白合成」抑制の可能性 2)が報告されている。
また、麻黄、桂皮に含まれるシンナミル化合物がIL-1αの過剰産生をおさえてウイルスの増殖を抑制するという報告もある。
ノイラミニダーゼ阻害薬とのメカニズムの違いから、麻黄湯併用によるウイルス抑制効果の増強もあるかもしれない。

1)Mantani N, et al. Antiviral Res. 1999,44,p.193-200.

2)Hayashi K,et al. Antiviral Res. 2007,74,p.1-8.

502(44) Science of Kampo Medicine 漢方医学Vo1. 33 No.4 2009