糖尿病の治療薬の基礎知識
糖尿病の治療薬・インスリン製剤一覧と作用・特徴まとめ
糖尿病の治療の目的は、血糖値をコントロールし、将来おこりうる合併症の発症と進行を抑えることです。
2型糖尿病では、食事療法、運動療法を基本におこなっていきますが、それでもコントロールできない場合は、合わせて「お薬による治療」も開始します。 糖尿病の治療薬には、様々なタイプがあり、作用の仕方も各々特徴があります。
今回は糖尿病の治療薬にどんなものがあるのかを大きく10コのタイプに分けて、それぞれの特徴を紹介します。
【※この情報は、西暦2017年8月時点の情報です。】
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概 要
1.糖尿病の治療薬について
これだけ医療が発達してきて様々な種類のお薬が出てきていても、実は、糖尿病を原因から完治させるというお薬は現状ありません。
お薬を飲む目的は、「血糖を下げてコントロールしておくことで、将来起こりうる合併症の発症と進行を抑えること」です。
ご存知のとおり、糖尿病には2つのタイプ「Ⅰ型」「Ⅱ型」があります。インスリンは血糖を下げる作用を持つホルモンで、すい臓から分泌されます。Ⅰ型糖尿病の場合は、インスリンの分泌が絶対的に不足するので、インスリン製剤による皮下注射が治療の中心です。
一方、糖尿病の方の約9割はⅡ型糖尿病で、インスリンの分泌が相対的に不足するタイプです。このタイプの糖尿病の治療では、医師の判断により適切なお薬が選択され、これから説明する10コのタイプのお薬が主に用いられます。
食事・運動療法などの生活習慣の改善が基本ですが、それでも血糖がコントロールできない場合には、お薬を服用し、血糖を下げる治療を行なっていきます。
2.一般的に用いられる糖尿病のお薬一覧
糖尿病の治療に用いられる10コのタイプのお薬をご紹介します。
( )内は成分名です。
2-1. スルホニル尿素薬(SU薬)
代表的なお薬:
・オイグルコン/ダオニール(グリベンクラミド)
・グリミクロン(グリクラジド)
・アマリール(グリメピリド)
作用:
インスリン分泌をつかさどるすい臓に働きかけ、インスリン分泌を促進させ血糖値を下げます。確実に血糖を下げる作用が期待できますが、低血糖症状を起こすリスクが伴います。
2-2. 速効性インスリン分泌薬
代表的なお薬:
・スターシス/ファスティック(ナテグリニド)
・グルファスト(ミチグリニド)
・シュアポスト(レパグリニド)
作用:
スルホニル尿素薬(SU薬)と同様にすい臓に働きかけ、インスリン分泌を促進させ血糖値を下げます。SU薬と比較すると吸収・分解が非常に速いことが特徴で、主に食後の高血糖を下げる目的で服用します。効果発現が早いため、食事の直前に服用します。
2-3. αグルコシダーゼ阻害薬
代表的なお薬:
・グルコバイ(アカルボース)
・ベイスン(ボグリボース)
・セイブル(ミグリトール)
作用:
腸管において、食べ物に含まれるブドウ糖の吸収をおさえて、食後の血糖値が高くなるのを抑えます。腸内に糖質が同時に存在しないと効果を発揮しないため、食事の前に服用します。副作用としてお腹の張りやおならなどがみられます。
2-4. ビグアナイド薬
代表的なお薬:
・メトグルコ(メトホルミン)
・ジベトス(ブホルミン)
作用:
肝臓で糖が作られるのを抑えたり、筋肉での糖利用を高めたりすることで、血糖値を下げます。単独で服用する場合には、低血糖の副作用はほとんどみられませんが、注意すべき副作用として乳酸アシドーシス※があります。
※乳酸アシドーシス
頻度は極めて稀ですが、血中に乳酸がたまった結果、血液が酸性に傾いた状態になることがあります。初期症状は、腹痛、悪心、嘔吐、下痢等の胃腸症状や、筋肉痛や倦怠感などがあります。数時間放置すると昏睡状態に陥ることもあります。
2-5. チアゾリジン誘導体
代表的なお薬:
・アクトス(ピオグリタゾン)
作用:
脂肪や筋肉に対してインスリンの働きを高める(インスリン抵抗性の改善)ことで、ブドウ糖の利用を促進し、血糖値を下げます。単独で服用する場合には、低血糖の副作用の心配は少ないですが、他のお薬との併用では注意が必要です。
2-6. DPP-4阻害薬
代表的なお薬:
・ジャヌビア/グラクティブ(シタグリプチンリン)
・ネシーナ(アログリプチン)
・エクア(ビルダグリプチン)
・トラゼンタ(リナグリプチン)
・テネリア(テネリグリプチン)
・スイニー(アナグリプチン)
・オングリザ(サキサグリプチン)
・ザファテック(トレラグリプチン)
・マリゼブ(オマリグリプチン)
作用:
インスリン分泌を促進する作用がある小腸から分泌されるホルモン(GLP-1)の働きを高め、血糖値を下げます。具体的には、GLP-1を分解してしまう酵素であるDPP-4の働きを妨げます。
こちらのお薬も単独で服用する場合には、低血糖の副作用の心配は少ないですが、他のお薬との併用では注意が必要です。
2-7. GLP-1受容体作動薬
代表的なお薬:
・ビクトーザ(リラグルチド)
・ビデュリオン、バイエッタ(エキセナチド)
・リキスミア(リキシセナチド)
・トルリシティ(デュラグルチド)
作用:
インスリン分泌を促進する作用がある小腸から分泌されるホルモン(GLP-1)のアナログ製剤です。GLP-1を分解してしまう酵素であるDPP-4という酵素がありますが、GLP-1受容体作動薬はこのDPP-4によって分解されないよう、本来のGLP-1の構造を変え、改良されてできたお薬です。
皮下注射によって投与するお薬です。
効果が持続するものもあり、週1回の皮下注射で同程度の効果を期待することもできます。
2-8. SGLT2阻害薬
代表的なお薬:
・スーグラ(イプラグリフロジン)
・フォシーガ(ダパグリフロジン)
・ルセフィ(ルセオグリフロジン)
・アプルウェイ/デベルザ(トホグリフロジン)
・カナグル(カナグリフロジン)
・ジャディアンス(エンパグリフロジン)
作用:
腎臓において、糖の再吸収を抑えることにより、糖を尿と一緒に外に出し、血糖値を下げます。そのため、尿中に糖が検出されますが、問題はありません。
また、尿中に血糖を排出するため、副作用として、頻度は多くありませんが、泌尿器感染症があります。尿量が増えることによって、脱水症状にも注意が必要です。
2-9. 配合剤
代表的なお薬:
・メタクト配合錠LD/ HD(ビオグリタゾン/メトホルミン)
・ソニアス配合錠LD/ HD(ビオグリタゾン/グリメピリド)
・グルベス配合錠(ミチグリニド/ボグリボース)
・リオベル配合錠LD/HD(アログリプチン/ビオグリタゾン)
・エクメット配合錠LD/HD(ビルダグリプチン/メトホルミン)
・イニシンク配合錠(アログリプチン、メトホルミン)
作用:
ここで紹介しているような血糖を下げる効果がある2剤の成分を配合しています。そのため、今まで複数のお薬を飲んでいた方にとって、1錠にまとまるため飲みやすく、飲み忘れ・飲み間違えなどのリスクを下げることができます。また、コストの面でも配慮されています。
2-10. インスリン製剤
代表的なお薬:
●超速効型
・ヒューマログ(インスリンリスプロ)
・ノボラピッド(インスリンアスパルト)
・アピドラ(インスリングルリジン)
●持効型
・ランタス(インスリングラルギン)
・トレシーバ(インスリンデグルデク)
・レベミル(インスリンデテミル)
その他、バイオシミラー医薬品があります。
●中間型
・ノボリンR(生合成ヒト中性インスリン)
・ヒューマリンN(ヒトイソフェンインスリン)
●混合型
・ノボラピッド30/50/70ミックス(二相性プロタミン結晶性インスリンアスパルト)
・ヒューマログミックス25/50(インスリンリスプロ混合製剤)
・ライゾデグ配合(インスリンデグルデク/インスリンアスパルト)
など
作用:
インスリンを体の外から補充することによって、血糖値をコントロールします。作用の速さと作用時間の長さによって、上述のように超速効型、速効性、中間型、持効型、2つ以上の特徴をあわせもった混合型に分けられます。1型糖尿病では、インスリン製剤での治療が基本となります。2型糖尿病でもインスリンの分泌量が相対的に不足しているときに用いられます。
詳しくはこちらを参考下さい。
3.糖尿病の治療薬において注意すべきは【低血糖】
糖尿病の治療では、血糖値を下げ、良好な血糖コントロールを行うことが大切ですが、多くのお薬で起こりうるのが「低血糖症状」になります。
そのため、低血糖症状について理解し、適切な処置方法を把握しておく必要があります。また、血糖を自己測定などで把握することが必要になる場合もあります。
低血糖の症状としては、
初期症状・・・強い空腹感、冷や汗、動悸、手指の震えなど
中期症状・・・脱力感・疲労感、めまい、ものがぼやけるなど
後期症状・・・昏睡、けいれんなど
日頃から、ブドウ糖などを準備・携帯しておき、万が一、低血糖症状を感じた場合には、ブドウ糖10g、または砂糖20g、若しくは、市販の糖分を含むジュース(200ml-350ml)を飲むようにしましょう。
また、症状が頻繁にみられる場合には、医師と都度相談し、お薬の種類や量を調整してもらうことが大切です。
4.おわりに
今回ご紹介した糖尿病の治療薬は、薬局でよく出ている一般的なお薬です。多くの種類がある糖尿病のお薬の中で、その方の糖尿病の症状に合わせて適切なお薬を医師が処方します。
より効果を高めるため、数種類のお薬を組み合わせて処方されることもあります。
糖尿病の治療薬の開発は進んでおり、新薬が次々に出ております。医師や薬剤師と相談しながら、生活習慣の改善を第一として、ご自分に合った糖尿病のお薬をみつけ、より効果の高い治療をおこなっていきましょう。
主症状
治 療
糖尿病薬物療法アルゴリズム
●薬物療法アルゴリズムの登場により、日本人における血糖降下薬の位置付けは少しずつ整理されてきました。しかし、実臨床の患者は、年齢も体形も合併症もまちまちです。非専門医では、薬剤選択に悩むこともあるでしょう。糖尿病診療の経験豊富な医師が考える処方のポイントとは?
●日本糖尿病学会は2022年9月、「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム」を公開しました。これまで、血糖降下薬の選択には明確な指針がなく、医師の裁量に委ねられてましたが、今回、エビデンスや国内の処方実態を基に、コンセンサスステートメントという形で整理されました。
●同アルゴリズムでは、ステップ1として、【BMI】 25kg/m2を境に患者を肥満と非肥満に大別し、それぞれの候補薬を提示しました。さらに患者ごとに配慮すべき点として、ステップ2では、血糖降下作用の強さ、低血糖リスク、体重への影響、禁忌や注意点を、ステップ3では、心血管疾患、心不全、慢性腎臓病(CKD)などの合併症の有無を、ステップ4では、服薬アドヒアランスと医療費を挙げ、薬剤を選択することとしました。
●心腎リスク×肥満にはSGLT2阻害薬かGLP-1薬か?
●とはいえ、各薬剤の患者像を具体的にイメージするには、やはり豊富な診療経験がものをいいます。
●同アルゴリズムのステップ3では、CKDや心血管疾患のある患者に対して、SGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬を考慮することとしています。臓器保護効果と体重減少効果が期待される両薬。GLP-1受容体作動薬にも経口薬が登場し、投与経路の差も埋められましました。では、それぞれの使い所はどう考えたらよいのだろうか?。
●「肝保護の期待も込めて、1剤目としてSGLT2阻害薬を使うことがある」と語るのは園田クリニック(鹿児島県鹿屋市)院長の園田紀之氏です。一部の薬剤が慢性心不全とCKDの適応を取得しているSGLT2阻害薬だが、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)にも有用な可能性が示唆されています。そのため園田氏は、高血圧や腎機能低下だけでなく、脂質異常症や脂肪肝も認める患者をSGLT2阻害薬の患者像の一例として挙げました。
●心腎リスクと肥満を併せ持つ患者では、このようにエビデンスが豊富なSGLT2阻害薬が優先される傾向があります。一方、「食行動変容が期待できるGLP-1受容体作動薬が第一選択となる患者もいます」と語るのは、岡本医院 おかもと糖尿病・内分泌クリニック(大分県豊後大野市)院長の岡本将英氏です 。尿糖排泄を促進するSGLT2阻害薬は、患者の食生活に変化がなくても体重減少が期待できます。対して、GLP-1受容体作動薬の体重減少効果は、食欲抑制によるカロリー摂取量の減少が主な機序。そのため、「このくらいの食事量なら太らない」という患者自身の気付きにつながるようです。
●従って、心腎リスクと肥満を併せ持つ患者では、GLP-1受容体作動薬を、食事療法がうまくいかない場合の候補薬として覚えておきたいです。王道のメトホルミン高齢者でも“元気”なら考慮。
●同アルゴリズムの作成に関わった国立国際医療研究センター病院糖尿病内分泌代謝科の坊内良太郎氏によると、糖尿病診療の専門施設と非専門施設では初回処方薬に乖離があり、非専門施設の約4割がビグアナイド薬(メトホルミン)を1剤目の選択肢に入れていなかったです。乳酸アシドーシスの恐れがあるメトホルミンは、重度の腎機能/肝機能障害、心不全などの患者には禁忌で、高齢者には慎重投与とされています(表1)。そのため、非専門医には敬遠されがちです。しかし、「心血管イベント抑制のエビデンスがあり、抗腫瘍効果や抗認知症効果も示唆されているメトホルミンは、高齢者にこそ恩恵がある」と福田達也氏(東京都立大久保病院内分泌代謝内科)は語ります。「腎機能や肝機能に大きな問題がなく、心血管系障害もない “元気な高齢者” では、メトホルミンをきちんと考慮すべきだろう」(福田氏)。
●また、「非肥満でも、筋肉量が少ないために脂肪量が相対的に増える『隠れ肥満』が案外存在する」と福田氏は指摘します。そのような患者では、体格に見合わないインスリン抵抗性を持っていることがあるため、メトホルミンが効果を発揮するようです。
●なお、副作用も低血糖のリスクも少なく、使いやすいとされるDPP-4阻害薬については、「心血管系のエビデンスなどもなく、高用量のメトホルミンと比較すると、血糖降下作用がマイルドで第一選択にならないケースが多い」と福田氏。ただし、メトホルミンの禁忌例ではDPP-4阻害薬を考慮することもあるといいます。ルーキーのイメグリミンは高齢者の第一選択に化けますか?
●2021年9月、世界に先駆けて発売されたイメグリミン。インスリン分泌不全と抵抗性の両方に作用することから、同アルゴリズムでは肥満、非肥満問わず、イメグリミンが候補薬として挙げられているが、実臨床でのデータに乏しく、患者像はまだ不鮮明なのが現状です。一方、発売から約1年間、イメグリミンを積極的に処方し、感触をつかんできた医師もいます。
●豊殿診療所(長野県上田市)所長の戸兵周一氏は、「血糖降下作用はゆっくりながらも着実で、さらに乳酸アシドーシスや、体重減少に伴うサルコペニアの懸念もないことから、非肥満の高齢者に使いやすい」と、イメグリミン実力を評価しています 。
●また、戸兵氏は自験例から、イメグリミンが握力増加などに寄与する可能性を見いだしており、「今後、膵外作用に関するエビデンスが蓄積すれば、イメグリミンは多くの高齢者の第一選択になり得るだろう」と期待します。
●適応追加のあったSGLT2阻害薬、経口薬が登場したGLP-1受容体作動薬、非専門医が敬遠しがちなメトホルミン、新顔のイメグリミン─。本特集では、各薬剤を「1剤目に推したい患者像」について、各医師に具体例を創作してもらいました。記事B~Eを読み、「うちにもこんな患者さんがいるな」と思われたら、ぜひその薬剤を考慮してみてほしいです。
治則説明