生薬解説紅花こうか

生薬解説 紅花

紅花 説明表示をクリック → 説明表示  いらっしゃいませ

中国における薬物の応用の歴史は非常に古く、独特の理論体系と応用形式をもつに至っており、現在では伝統的な使用薬物を「中薬」とよんでいます。

中薬では草根木皮といわれる植物薬が大多数を占めるところから、伝統的に薬物学のことを「本草学」と称しており、近年は「中薬学」と名づけています。

中薬学は、中薬の性味・帰経・効能・応用・炮製・基原などの知識と経験に関する一学科であり、中医学における治療の重要な手段のひとつとして不可分の構成部分をなしています。

【大分類】活血化瘀薬(理血薬)…血行を促して、瘀血を除去する中薬です。

キャッチコピー活血化瘀作用

【学 名】…Carthamus tinctorius L.

【別 名】…ベニバナ、ホンファ

 概 要

薬膳の素材としても知られる紅花は、血液の流れを改善する活血化瘀作用があるため、瘀血(血行不良)による高血圧や狭心症、動脈硬化、脳梗塞などの心血管系の疾患をはじめ、月経痛や月経不順などの婦人病、打撲や外傷などにも用いられている植物生薬です。


 生薬生産地

中国地図 【日本産地】…東北地方
【その他産地】…エジプト、インド、インドネシア、アメリカ、オーストラリア


 処方と調合

優れた活血化瘀作用で血行障害による諸症状を改善
紅花の性質は、体を温める作用のある温性で、滞った血行をスムーズにする活血化症作用に優れており、特に「心」と「肝」の症状に効果的です。

臨床応用としては、各種の瘀血阻滞による疾患及び血行不良の諸症状に幅広く使われています。高血圧や狭心症をはじめ、静脈血栓症、静脈瘤、脳梗塞、高脂血症、動脈硬化、糖尿病による壊疽などには、丹参、川芎、芍薬などと併用されることが多く、代表的な中成薬に血液をサラサラにする「冠元穎粒」や「血府逐瘀丸」などがあります。

また、血行不良による月経痛や無月経、月経不順、不妊症、更年期障害などの婦人病にも効果的で、当帰、川芎、牡丹皮などの生薬と配合して使用されます。こうした婦人病に用いられる主な漢方薬に、「芎帰調血飲第一加減」や「折衝飲」、「通導散」などがあります。

瘀血(血行不良)の原因には、血液が不足することによる「血虚」と、血液循環を促進させる気(エネルギー)が不足した「気虚」、ストレスなどによって気の流れが停滞した「気滞」などがありますが、婦人病の場合は、不足した血液を養う作用がある「当帰養血精」と併用すると、さらに効果的です。

他に紅花には消炎・鎮痛作用もあるため、打撲や外傷、やけど、腫れ物などにも用いられています。この場合は、蒼朮や連翅、大黄などと併用するのが一般的です。代表的な処方に「治頭瘡一方」などがあります。


 伝統的薬能

日本への渡来も古く、飛鳥時代に染色の技術とともに伝えられたといわれており、古くから東北地方を中心に栽培されてきました。

聖徳太子は、女性の最高位を表す色として「紅」を指定しています。

季語は夏で、別名「くれない」とも呼ばれ、『万葉集』にも「くれなみに衣染めまく欲しけども著くにほはばや人の知るべき」という柿本人麻呂の歌が残されています。

また、「末摘花」の異名もあり、『源氏物語』に登場する赤い鼻の常陸宮の娘・末摘花も、紅花に由来しています。

観賞用の切花としても活用される紅花は、夏に鮮やかな紅黄色のアザミに似た頭花をつけます。咲き始めは黄色で、しだいに紅色に変わっていくのが特徴です。薬用に用いられるのは、花冠を乾燥したものですが、黄色から紅色へ変わりかけた頃に採集されたものが使われています。

花冠は、日本古来の貝殻に塗りつけた口紅(京紅)や、染料の素材としても用いられてきました。染料に使用された歴史は古く、紀元前2500年のエジプトのミイラの着衣に、紅花から作った赤い染料が発見されています。

花から染料の紅を作るには、夜露の残る早朝に手摘みしてから水洗いし、蒸籠で蒸した後に水をかけ、板餅状に圧搾して乾燥させます。これが紅色の染料の原料になります。

葉はサラダなどの食用に使われ、種子は油料に用いられます。紅花油は、血管コレステロールの沈着の予防に効く油として知られています。また、紅花の主産地として名高い山形県では、紅花を蕎麦に煉りこんだ紅花蕎麦も食されています。

中国では、文房四宝の一つである墨に、紅花油を燃やして作る煤をニカワと一緒に煉って作った良質の「紅花墨」があります。

少量の紅花を食用にすると養血美肌作用があるので、中国では、薬膳にもよく使われています。シチューやスープ、豚肉や鶏肉の妙め物などに活用できますが、紅花は長く火を通すと苦みが出るので、他の食材に火が通り、調味料も加えて味を調えてから最後に加えるようにしましよう。紅花は、漢方薬局や中華素材を扱うスーパーなどで入手できます。

薬物の治療効果と密接に関係する薬性理論(四気五味・昇降浮沈・帰経・有毒と無毒・配合・禁忌)の柱となるのが次に掲げる「性・味・帰経」です。

【温寒】… 温
※性:中薬はその性質によって「寒・涼・平・熱・温」に分かれます。例えぱ、患者の熱を抑える作用のある生薬の性は寒(涼)性であり、冷えの症状を改善する生薬の性は熱(温)性です。寒性涼性の生薬は体を冷やし、消炎・鎮静作用があり、熱性温性の生薬は体を温め、興奮作用があります。

生薬中薬)の性質と関連する病証
性質作用対象となる病証

寒/涼

熱を下げる。火邪を取り除く。毒素を取り除く。

熱証陽証陰虚証。

熱/温

体内を温める。寒邪を追い出す。陽を強める。

寒証陰証陽虚証。

熱を取り除き、内部を温める2つの作用をより穏やかに行う。

すべての病証。


【帰経】…心・肝
帰経とは中薬が身体のどの部位(臓腑経絡)に作用するかを示すものです。

【薬味】…辛  まず肺に入ります。
※味とは中薬の味覚のことで「辛・酸・甘・鹸・苦・淡」の6種類に分かれます。この上位5つの味は五臓(内臓)とも関連があり、次のような性質があります。
生薬中薬)の味と関連する病証
 味作 用対象となる病証対象五臓

辛(辛味)

消散する/移動させる。体を温め、発散作用。

外証。風証。気滞証。血瘀証。

肺に作用。

酸(酸味)すっぱい。渋い。

縮小させる(収縮・固渋作用)。

虚に起因する発汗。虚に起因する出血。慢性的な下痢。尿失禁。

肝に作用。

甘(甘味)

補う。解毒する。軽減する。薬能の調整。緊張緩和・滋養強壮作用。

陰虚。陽虚。気虚。

脾に作用。

鹹(塩味)塩辛い。

軟化と排除。大腸を滑らかにする。しこりを和らげる軟化作用。

リンパ系その他のシステムが戦っているときの腫れ。

腎に作用。

苦(苦味)

上逆する気を戻す。湿邪を乾燥させる。気血の働きを活性化させる。熱をとって固める作用。

咳・嘔吐・停滞が原因の便秘。排尿障害。水湿証。肺気の停滞に起因する咳。血瘀証。

心に作用。

淡(淡味)

利尿。

水湿証。

【薬効】…月経調整作用  活血作用  鎮痛作用  化瘀作用 

【用 途】…活血化瘀、通経。少量で使う場合は養血作用もある。

【学 名】…Carthamus tinctorius L.

●日本薬局方
【三品分類(中国古代の分類)】… 神農本草経や名医別録などでの生薬分類法
中品(保健薬)


 生薬の画像

【基原(素材)】…キク科ベニバナの花弁。

紅花の生薬画像


紅花の植物画像2



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 方剤リンク

本中薬(紅花)を使用している方剤へのリンクは次のとおりです。関連リンク


  関連処方治頭瘡一方 »
  関連処方通導散 »
  関連処方冠心Ⅱ号方 »
  関連処方芎帰調血飲第一加減 »
  関連処方血府逐瘀湯 »
  関連処方折衝飲 »


生薬 生薬は、薬草を現代医学により分析し、効果があると確認された有効成分を利用する薬です。 生薬のほとんどは「日本薬局方」に薬として載せられているので、医師が保険のきく薬として処方する場合もあります。


中薬・中成薬 中薬は、本場中国における漢方薬の呼び名です。薬草単体で使用するときを中薬、複数組み合わせるときは、方剤と呼び分けることもあります。
本来中薬は、患者個人の証に合わせて成分を調整して作るものですが、方剤の処方を前もって作成した錠剤や液剤が数多く発売されています。これらは、中成薬と呼ばれています。 従って、中国の中成薬と日本の漢方エキス剤は、ほぼ同様な医薬品といえます。


 備 考

古来植物染料・口紅などとして用いられた。


生薬陳列

 生薬の書物の歴史

1.【神農本草経】(西暦112年)
中医薬学の基礎となった書物です。植物薬252種、動物薬67種、鉱物薬46種の合計365種に関する効能と使用方法が記載されています。
神農本草経

神農神農:三皇五帝のひとりです。中国古代の伝説上の人といわれます。365種類の生薬について解説した『神農本草経』があり、薬性により上薬、中薬、下薬に分類されています。日本では、東京・お茶の水の湯島聖堂 »に祭られている神農像があり、毎年11月23日(勤労感謝の日)に祭祀が行われます。



2.【本草経集注】(西暦500年頃)
斉代の500年頃に著された陶弘景(とうこうけい)の『本草経集注(しっちゅう)』です。掲載する生薬の数は、『神農本草経』(112年)の2倍に増えました。 本草経集注(しっちゅう)
松溪論畫圖 仇英(吉林省博物館藏)
松溪論畫圖 仇英(吉林省博物館藏)

陶弘景(456~536年)は、中国南北朝時代(420~589年)の文人、思想家、医学者です。江蘇省句容県の人です。茅山という山中に隠棲し、陰陽五行、山川地理、天文気象にも精通しており、国の吉凶や、祭祀、討伐などの大事が起こると、朝廷が人を遣わして陶弘景に教えを請いました。
そのために山中宰相と呼ばれました。庭に松を植える風習は陶弘景からはじまり、松風の音をこよなく愛したものも陶弘景が最初です。
風が吹くと喜び勇んで庭に下り立ち、松風の音に耳をかたむける陶弘景の姿はまさに仙人として人々の目に映ったことでしょう。



3.【本草項目】(西暦1578年)
30年近い歳月を費やして明代の1578年に完成された李時珍(りじちん)の『本草項目』です。掲載する生薬の数は、約1900種に増えました。
『本草綱目』は、1590年代に金陵(南京)で出版され、その後も版を重ねました。わが国でも、徳川家康が愛読したほか、薬物学の基本文献として尊重され、小野蘭山陵『本草綱目啓蒙』など多くの注釈書、研究書が著されています。
本草綱目は日本などの周辺諸国のみならず、ラテン語などのヨーロッパ語にも訳されて、世界の博物学・本草学に大きな影響を与えています。
本草項目
儒者・林羅山(1583~1657年)の旧蔵書

李時珍 李時珍(1518~1593年)は、中国明時代(1368~1644年)の中国・明の医師で本草学者。中国本草学の集大成とも呼ぶべき『本草綱目』や奇経や脉診の解説書である『瀕湖脉学』、『奇経八脉考』を著した。
湖北省圻春県圻州鎮の医家の生まれです。科挙の郷試に失敗し、家にあって古来の漢方薬学書を研究しました。30歳頃からあきたらくなって各地を旅行し調査したり文献を集めたりはじめます。ついに自分の研究成果や新しい分類法を加え、30年の間に3度書き改めて、1578年<万暦6年>『本草綱目』を著して、中国本草学を確立させました。
関連処方李時珍、生家にて »



4.【中医臨床のための中薬学】(西暦1992年)
現在、私が使用している本草の辞典です。生薬の記載個数は、約2,700種に増えました。
神戸中医学研究会の編著です。
中医臨床のための中薬学


区切り
ハル薬局

【薬用部分】…花

道教・八卦 人参

紅花の植物画像

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