生薬解説五味子ごみし

生薬解説 五味子

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中国における薬物の応用の歴史は非常に古く、独特の理論体系と応用形式をもつに至っており、現在では伝統的な使用薬物を「中薬」とよんでいます。

中薬では草根木皮といわれる植物薬が大多数を占めるところから、伝統的に薬物学のことを「本草学」と称しており、近年は「中薬学」と名づけています。

中薬学は、中薬の性味・帰経・効能・応用・炮製・基原などの知識と経験に関する一学科であり、中医学における治療の重要な手段のひとつとして不可分の構成部分をなしています。

【大分類】収渋薬…体内からもれ出るものを止める中薬です。

キャッチコピー気管支炎、ゼンソクなど痰の多い場合・下痢

【学 名】…Schisandra chinensis Baill.

【別 名】…北五味子・北五味・五味

 概 要

五味子はマツブサ科のチョウセンゴミシ(Schisandra chinensis Baill.)の果実です。

●原植物は落葉性の蔓性木本植物で、和名には朝鮮の名前があるが日本にも自生があり、北海道や本州の中部地方以北の山地の林床や林縁などに見られます。

●松の仲間のチョウセンゴヨウと同様、日本で確認される以前に名前がつけられたようです。

●果実が実るのは多くは林縁に生えるものであり、林床に生えるものは地下に長く根茎を引いて次々と子株を増やします。

●これを採集して植えると容易に活着するが、大きな株を植えてもなかなか根付きません。

●蔓は細く高さ2mほどになり、葉は倒卵形で互生し長さ6~1Ocm、先は尖り、縁には細かい鋸歯があり、質はやや薄いです。初夏に白くて芳香がある小さな花を咲かせ、秋に大小が異なる丸い液果が紅熟して房状になって垂れ下がる姿は美しいです。

●これを採集して乾燥し、果実だけ集めて生薬にします。

●チョウセンゴミシの成熟果実で脂肪油、精油、有機酸などを含んでいます。滋養,強壮,虚弱、また鎮咳、止瀉薬として気管支炎、ゼンソクなど痰の多いときや下痢などに応用します。


 生薬生産地

中国地図 【中国産地】…遼寧省、吉林省
【その他産地】…北朝鮮



 伝統的薬能

薬物の治療効果と密接に関係する薬性理論(四気五味・昇降浮沈・帰経・有毒と無毒・配合・禁忌)の柱となるのが次に掲げる「性・味・帰経」です。

【温寒】… 温
※性:中薬はその性質によって「寒・涼・平・熱・温」に分かれます。例えぱ、患者の熱を抑える作用のある生薬の性は寒(涼)性であり、冷えの症状を改善する生薬の性は熱(温)性です。寒性涼性の生薬は体を冷やし、消炎・鎮静作用があり、熱性温性の生薬は体を温め、興奮作用があります。

生薬中薬)の性質と関連する病証
性質作用対象となる病証

寒/涼

熱を下げる。火邪を取り除く。毒素を取り除く。

熱証陽証陰虚証。

熱/温

体内を温める。寒邪を追い出す。陽を強める。

寒証陰証陽虚証。

熱を取り除き、内部を温める2つの作用をより穏やかに行う。

すべての病証。

 【補瀉】… 補  【潤燥】…  【升降】…  【散収】…
【帰経】…肺・心・腎
帰経とは中薬が身体のどの部位(臓腑経絡)に作用するかを示すものです。

【薬味】…酸  まず肝に入ります。
※味とは中薬の味覚のことで「辛・酸・甘・鹸・苦・淡」の6種類に分かれます。この上位5つの味は五臓(内臓)とも関連があり、次のような性質があります。
生薬中薬)の味と関連する病証
 味作 用対象となる病証対象五臓

辛(辛味)

消散する/移動させる。体を温め、発散作用。

外証。風証。気滞証。血瘀証。

肺に作用。

酸(酸味)すっぱい。渋い。

縮小させる(収縮・固渋作用)。

虚に起因する発汗。虚に起因する出血。慢性的な下痢。尿失禁。

肝に作用。

甘(甘味)

補う。解毒する。軽減する。薬能の調整。緊張緩和・滋養強壮作用。

陰虚。陽虚。気虚。

脾に作用。

鹹(塩味)塩辛い。

軟化と排除。大腸を滑らかにする。しこりを和らげる軟化作用。

リンパ系その他のシステムが戦っているときの腫れ。

腎に作用。

苦(苦味)

上逆する気を戻す。湿邪を乾燥させる。気血の働きを活性化させる。熱をとって固める作用。

咳・嘔吐・停滞が原因の便秘。排尿障害。水湿証。肺気の停滞に起因する咳。血瘀証。

心に作用。

淡(淡味)

利尿。

水湿証。

【薬効】…鎮咳作用  平喘作用  止汗作用  強壮作用  滋養作用  止瀉作用 

【学 名】…Schisandra chinensis Baill.

【禁 忌】…熱証の咳嗽・呼吸困難には禁忌です。急性炎症や高血圧症・動脈硬化症には使用しない方が良いです。

●日本薬局方
【三品分類(中国古代の分類)】… 神農本草経や名医別録などでの生薬分類法
上品(不老長生薬)


 生薬の画像

【基原(素材)】…モクレン科チョウセンゴミシの果実。

五味子の生薬


植物全体画像


五味子の生薬2


五味子の花の画像


五味子の実の画像



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 方剤リンク

本中薬(五味子)を使用している方剤へのリンクは次のとおりです。関連リンク


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生薬 生薬は、薬草を現代医学により分析し、効果があると確認された有効成分を利用する薬です。 生薬のほとんどは「日本薬局方」に薬として載せられているので、医師が保険のきく薬として処方する場合もあります。


中薬・中成薬 中薬は、本場中国における漢方薬の呼び名です。薬草単体で使用するときを中薬、複数組み合わせるときは、方剤と呼び分けることもあります。
本来中薬は、患者個人の証に合わせて成分を調整して作るものですが、方剤の処方を前もって作成した錠剤や液剤が数多く発売されています。これらは、中成薬と呼ばれています。 従って、中国の中成薬と日本の漢方エキス剤は、ほぼ同様な医薬品といえます。


 詳 細

●五味子は字のごとく「酸・苦・甘・辛・鹹」の五味を備えているが、酸味が勝ります。

●中薬学では収渋薬に分類され、正気の虚弱によって、汗、大小便、血液などが異常に漏れ出すのを止めます。

●固渋薬とも呼ばれ、多くは酸味と渋味を有する薬物で、山茱萸・五倍子・烏海・蓮肉などもまた収渋薬です。

●中国市場には南・北2種があり、北五味子はチョウセンゴミシに由来し、南五味子は同属のS.sphenanthera Rehd.で、日本ではサネカズラ(ビナンカズラ)Kadsura japonica Dunalをあててきました。両者は使い分けられ、北五味子は虚証の咳嗽に、南五味子は風寒咳嗽に用いられます。

●韓国市場では国内産と中国産が区別して売られています。前者は高価ですが単に輸入価格の違いによるのではなく、韓国社会に深く浸透している身上不二の考え方から国内産のほうが薬効的に優れていると考えられていることも理由です。

●日本でも国内自生品あるいはその栽培品を利用することが可能で、これまでの経験では栽培したほうが野生よりも実付きがよく房も大きくなるようです。


生薬陳列

 生薬の書物の歴史

1.【神農本草経】(西暦112年)
中医薬学の基礎となった書物です。植物薬252種、動物薬67種、鉱物薬46種の合計365種に関する効能と使用方法が記載されています。
神農本草経

神農神農:三皇五帝のひとりです。中国古代の伝説上の人といわれます。365種類の生薬について解説した『神農本草経』があり、薬性により上薬、中薬、下薬に分類されています。日本では、東京・お茶の水の湯島聖堂 »に祭られている神農像があり、毎年11月23日(勤労感謝の日)に祭祀が行われます。



2.【本草経集注】(西暦500年頃)
斉代の500年頃に著された陶弘景(とうこうけい)の『本草経集注(しっちゅう)』です。掲載する生薬の数は、『神農本草経』(112年)の2倍に増えました。 本草経集注(しっちゅう)
松溪論畫圖 仇英(吉林省博物館藏)
松溪論畫圖 仇英(吉林省博物館藏)

陶弘景(456~536年)は、中国南北朝時代(420~589年)の文人、思想家、医学者です。江蘇省句容県の人です。茅山という山中に隠棲し、陰陽五行、山川地理、天文気象にも精通しており、国の吉凶や、祭祀、討伐などの大事が起こると、朝廷が人を遣わして陶弘景に教えを請いました。
そのために山中宰相と呼ばれました。庭に松を植える風習は陶弘景からはじまり、松風の音をこよなく愛したものも陶弘景が最初です。
風が吹くと喜び勇んで庭に下り立ち、松風の音に耳をかたむける陶弘景の姿はまさに仙人として人々の目に映ったことでしょう。



3.【本草項目】(西暦1578年)
30年近い歳月を費やして明代の1578年に完成された李時珍(りじちん)の『本草項目』です。掲載する生薬の数は、約1900種に増えました。
『本草綱目』は、1590年代に金陵(南京)で出版され、その後も版を重ねました。わが国でも、徳川家康が愛読したほか、薬物学の基本文献として尊重され、小野蘭山陵『本草綱目啓蒙』など多くの注釈書、研究書が著されています。
本草綱目は日本などの周辺諸国のみならず、ラテン語などのヨーロッパ語にも訳されて、世界の博物学・本草学に大きな影響を与えています。
本草項目
儒者・林羅山(1583~1657年)の旧蔵書

李時珍 李時珍(1518~1593年)は、中国明時代(1368~1644年)の中国・明の医師で本草学者。中国本草学の集大成とも呼ぶべき『本草綱目』や奇経や脉診の解説書である『瀕湖脉学』、『奇経八脉考』を著した。
湖北省圻春県圻州鎮の医家の生まれです。科挙の郷試に失敗し、家にあって古来の漢方薬学書を研究しました。30歳頃からあきたらくなって各地を旅行し調査したり文献を集めたりはじめます。ついに自分の研究成果や新しい分類法を加え、30年の間に3度書き改めて、1578年<万暦6年>『本草綱目』を著して、中国本草学を確立させました。
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4.【中医臨床のための中薬学】(西暦1992年)
現在、私が使用している本草の辞典です。生薬の記載個数は、約2,700種に増えました。
神戸中医学研究会の編著です。
中医臨床のための中薬学


区切り
ハル薬局

【薬用部分】…果実

 成 分

精油、有機酸類および schizandren


【中国での一般的服用量】…3~9g


道教・八卦 人参

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