【大分類】補虚薬…正気を補う中薬です。
【中分類】補血薬…血を補う中薬です。
【学 名】…Paeonia lactiflora
【別 名】…シャクヤク
赤芍と白芍は同じ品種の異形です。この名称は花の色を反映しているのではありませんが、赤芍薬は根の色が濃く、伝統的に野生のものから採取され、白芍薬は栽培品種から採取されます。
●芍薬の利用は、陶弘景の著書『本草経集注』に記載された500年ごろまでさかのぼります。
●筋の痛み緊張をゆるめます。
●血行不良の腹痛に用います。
【中国産地】…内蒙古、浙江省、河北省、四川省、安徽省
【日本産地】…奈良・長野・北海道・新潟・島根・静岡
赤芍薬は当帰(カラトウキ)と熟地黄(キツネノテブク□)と配合して肝臓や血の虚に関連する月経問題に使用(四物湯)。
●白芍薬は香附子(八マスゲ)と川芎(四川ラビジ)と配合して血の停滞に開運する月経通に使用。
白芍薬:肝臓の機能とエネルギーのバランスをとる。
・血に滋養を与える。
・肝臓の気を鎮める。
赤芍薬:血を活性化し、停滞を散らす。
・熱を取り除き、血を冷やす。
・肝火を取り除く。
薬物の治療効果と密接に関係する薬性理論(四気五味・昇降浮沈・帰経・有毒と無毒・配合・禁忌)の柱となるのが次に掲げる「性・味・帰経」です。
【温寒】…
涼
※性:中薬はその性質によって「寒・涼・平・熱・温」に分かれます。例えぱ、患者の熱を抑える作用のある生薬の性は寒(涼)性であり、冷えの症状を改善する生薬の性は熱(温)性です。寒性、涼性の生薬は体を冷やし、消炎・鎮静作用があり、熱性、温性の生薬は体を温め、興奮作用があります。
性質 | 作用 | 対象となる病証 |
---|---|---|
寒/涼 |
熱を下げる。火邪を取り除く。毒素を取り除く。 |
熱証。陽証。陰虚証。 |
熱/温 |
体内を温める。寒邪を追い出す。陽を強める。 |
寒証。陰証。陽虚証。 |
平 |
熱を取り除き、内部を温める2つの作用をより穏やかに行う。 |
すべての病証。 |
味 | 作 用 | 対象となる病証 | 対象五臓 |
---|---|---|---|
辛(辛味) |
消散する/移動させる。体を温め、発散作用。 |
外証。風証。気滞証。血瘀証。 |
肺に作用。 |
酸(酸味)すっぱい。渋い。 |
縮小させる(収縮・固渋作用)。 |
虚に起因する発汗。虚に起因する出血。慢性的な下痢。尿失禁。 |
肝に作用。 |
甘(甘味) |
補う。解毒する。軽減する。薬能の調整。緊張緩和・滋養強壮作用。 |
陰虚。陽虚。気虚。 |
脾に作用。 |
鹹(塩味)塩辛い。 |
軟化と排除。大腸を滑らかにする。しこりを和らげる軟化作用。 |
リンパ系その他のシステムが戦っているときの腫れ。 |
腎に作用。 |
苦(苦味) |
上逆する気を戻す。湿邪を乾燥させる。気血の働きを活性化させる。熱をとって固める作用。 |
咳・嘔吐・停滞が原因の便秘。排尿障害。水湿証。肺気の停滞に起因する咳。血瘀証。 |
心に作用。 |
淡(淡味) |
利尿。 |
水湿証。 |
― |
【薬効】…鎮痛作用
鎮痙作用
冷え症作用
婦人病作用
【薬理作用】…芍薬の水エキスは家兎の胃運動及び摘出腸管の緊張上昇、振幅増大をもたらしエタノールエキス(主成分は配糖体)は家兎の生体腸管運動亢進、モルモットの摘出腸管運動抑制、マウスの摘出子宮運動を低濃度で亢進、高濃度で抑制、モルモットも気管支拡張等の作用を示す。主成分であるpaeoniflorinには鎮痛、鎮静、鎮痙、抗炎症、抗ストレス潰瘍、血圧降下、血管拡張、平滑筋弛緩作用等が報告されている。
利尿、抗炎症、鎮痙、鎮静、血圧を下げる、鎮痛、抗凝固、血中コレステロール値を下げる、免疫賦活。
【用 途】…収斂、緩和、鎮痙、鎮痛薬。筋肉ことに直腹筋の痙攣を緩和し腹痛、腹満、身体手足の疼痛、下痢等に用いる。
【学 名】…Paeonia lactiflora
【禁 忌】…●下痢および腹部の冷えがあるとぎは白芍薬の使用は避けること。
●血の停滞が見られないときは赤芍薬の使用は避けること。
●日本薬局方
【出典】…神農本草経
【三品分類(中国古代の分類)】… 神農本草経や名医別録などでの生薬分類法
中品(保健薬)
【基原(素材)】…キンポウゲ科、ボタン科シャクヤクまたは近縁種の根です。
芍薬
芍薬の植物画像
芍薬
植物全体画像
芍薬の植物全体画像
上は赤芍、下は白芍の生薬
芍薬の花
本中薬(芍薬)を使用している方剤へのリンクは次のとおりです。
温経湯 »
温清飲 »
葛根湯 »
加味逍遙散 »
芎帰膠艾湯 »
荊芥連翹湯 »
桂枝加芍薬湯 »
桂枝加芍薬大黄湯 »
桂枝湯 »
桂枝茯苓丸 »
五積散 »
五淋散 »
柴胡清肝湯 »
滋陰降火湯 »
滋陰至宝湯 »
四逆散 »
七物降下湯 »
四物湯 »
芍薬甘草湯 »
十全大補湯 »
小建中湯 »
小青竜湯 »
真武湯 »
疎経活血湯 »
大柴胡湯 »
大防風湯 »
当帰飲子 »
当帰芍薬散 »
当帰湯 »
人参養栄湯 »
排膿散及湯 »
防風通聖散 »
麻子仁丸 »
薏苡仁湯 »
生薬は、薬草を現代医学により分析し、効果があると確認された有効成分を利用する薬です。
生薬のほとんどは「日本薬局方」に薬として載せられているので、医師が保険のきく薬として処方する場合もあります。
中薬は、本場中国における漢方薬の呼び名です。薬草単体で使用するときを中薬、複数組み合わせるときは、方剤と呼び分けることもあります。
本来中薬は、患者個人の証に合わせて成分を調整して作るものですが、方剤の処方を前もって作成した錠剤や液剤が数多く発売されています。これらは、中成薬と呼ばれています。
従って、中国の中成薬と日本の漢方エキス剤は、ほぼ同様な医薬品といえます。
1.【神農本草経】(西暦112年)
中医薬学の基礎となった書物です。植物薬252種、動物薬67種、鉱物薬46種の合計365種に関する効能と使用方法が記載されています。
※神農:三皇五帝のひとりです。中国古代の伝説上の人といわれます。365種類の生薬について解説した『神農本草経』があり、薬性により上薬、中薬、下薬に分類されています。日本では、東京・お茶の水の湯島聖堂 »に祭られている神農像があり、毎年11月23日(勤労感謝の日)に祭祀が行われます。
2.【本草経集注】(西暦500年頃)
斉代の500年頃に著された陶弘景(とうこうけい)の『本草経集注(しっちゅう)』です。掲載する生薬の数は、『神農本草経』(112年)の2倍に増えました。
松溪論畫圖 仇英(吉林省博物館藏)
陶弘景(456~536年)は、中国南北朝時代(420~589年)の文人、思想家、医学者です。江蘇省句容県の人です。茅山という山中に隠棲し、陰陽五行、山川地理、天文気象にも精通しており、国の吉凶や、祭祀、討伐などの大事が起こると、朝廷が人を遣わして陶弘景に教えを請いました。
そのために山中宰相と呼ばれました。庭に松を植える風習は陶弘景からはじまり、松風の音をこよなく愛したものも陶弘景が最初です。
風が吹くと喜び勇んで庭に下り立ち、松風の音に耳をかたむける陶弘景の姿はまさに仙人として人々の目に映ったことでしょう。
3.【本草項目】(西暦1578年)
30年近い歳月を費やして明代の1578年に完成された李時珍(りじちん)の『本草項目』です。掲載する生薬の数は、約1900種に増えました。
『本草綱目』は、1590年代に金陵(南京)で出版され、その後も版を重ねました。わが国でも、徳川家康が愛読したほか、薬物学の基本文献として尊重され、小野蘭山陵『本草綱目啓蒙』など多くの注釈書、研究書が著されています。
本草綱目は日本などの周辺諸国のみならず、ラテン語などのヨーロッパ語にも訳されて、世界の博物学・本草学に大きな影響を与えています。
儒者・林羅山(1583~1657年)の旧蔵書
李時珍(1518~1593年)は、中国明時代(1368~1644年)の中国・明の医師で本草学者。中国本草学の集大成とも呼ぶべき『本草綱目』や奇経や脉診の解説書である『瀕湖脉学』、『奇経八脉考』を著した。
湖北省圻春県圻州鎮の医家の生まれです。科挙の郷試に失敗し、家にあって古来の漢方薬学書を研究しました。30歳頃からあきたらくなって各地を旅行し調査したり文献を集めたりはじめます。ついに自分の研究成果や新しい分類法を加え、30年の間に3度書き改めて、1578年<万暦6年>『本草綱目』を著して、中国本草学を確立させました。
李時珍、生家にて »
4.【中医臨床のための中薬学】(西暦1992年)
現在、私が使用している本草の辞典です。生薬の記載個数は、約2,700種に増えました。
神戸中医学研究会の編著です。
【薬用部分】…
モノテルペン配糖体のペオニフロリンpaeoniflorin
【中国での一般的服用量】…白芍薬:6~15g 赤芍薬:9~18g
熱帯アジア原産の大形の多年草で、地下にショウガ様の肥厚した黄色い根茎を有し、高さ1~1.5mです。葉は長楕円形で緑色を呈し、両面とも毛がなく、4~7枚が2列に互生します。
生薬一覧芍薬の植物画像