生薬解説当帰とうき

生薬解説 当帰

当帰 説明表示をクリック → 説明表示  いらっしゃいませ

中国における薬物の応用の歴史は非常に古く、独特の理論体系と応用形式をもつに至っており、現在では伝統的な使用薬物を「中薬」とよんでいます。

中薬では草根木皮といわれる植物薬が大多数を占めるところから、伝統的に薬物学のことを「本草学」と称しており、近年は「中薬学」と名づけています。

中薬学は、中薬の性味・帰経・効能・応用・炮製・基原などの知識と経験に関する一学科であり、中医学における治療の重要な手段のひとつとして不可分の構成部分をなしています。

【大分類】補虚薬…正気を補う中薬です。
【中分類】補血薬…血を補う中薬です。

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【学 名】…Angelica acutiloba Kitagawa

【別 名】…カラトウキ・全当帰・西当帰・当帰身・当帰尾・当帰鬚・土炒当帰

 概 要

当帰は欧米で最も人気のある中国の強壮薬の一つで、婦人科系疾患の治療薬として多くの商品が販売されています。

●神農は、マラリア、咳、気の逆行、女性の不妊症に効くとして勧めています。当帰の根は部分によって性質が異なり、下部先端は最も強く血流を促し、最上部(頭部)は強壮作用が強いと言われています。

●セリ科トウキの根で精油やフタライド類、ステロール類などを含みます。貧血症、月経不順、更年期障害など、婦人科の要薬として使用します。

当帰を中心にした漢方薬は、養血調経作用があり、生理不順や生理痛を緩和していきます。女性の人は、毎月生理で一定の血液を消耗しますので、慢性的に血液が不足しがちです。

いざ 「妊娠、出産、授乳」のときにも、大量の血液が必要とされます。ふだんから、血液を養っておかないと、生理痛や生理不順、冷え性、不妊症の原因となります。血(けつ)がなければ、生理がこないので、妊娠できません。

このことを、中医学では婦人は、血(けつ)をもって本となすと認識しています。

●慢性的な血液不足のことを、血虚と呼びますが、「当帰を中心にした漢方薬」を服用しますと、血液不足の 血虚の体が補血または養血されていきますので、婦人病が改善する基本となります。


 生薬生産地

中国地図 【中国産地】…四川省、甘粛省、雲南省、浙江省
【日本産地】…大和(奈良県)・北海道・滋賀・宮城・長野県
【その他産地】…韓国


 処方と調合

●黄耆(オウギ)や生姜(ショウガ)とともにラムシチューに加え、分娩後の痛みの緩和に使用。

●火麻仁(大麻)と配合し、高齢者向けの緩下剤として利用します(潤腸湯・潤腸丸)。

●白芍薬(シャクヤク)、川芎(四川ラビジ)および熟地黄(キツネノテブクロ)と配合して血の虚や停滞に関連する月経問題に使用します(四物湯)。


 伝統的薬能

・血に滋養を与え、血の循環を活性化する。

・腸を潤し、便通を良くする(緩下剤効果)。

薬物の治療効果と密接に関係する薬性理論(四気五味・昇降浮沈・帰経・有毒と無毒・配合・禁忌)の柱となるのが次に掲げる「性・味・帰経」です。

【温寒】…
※性:中薬はその性質によって「寒・涼・平・熱・温」に分かれます。例えぱ、患者の熱を抑える作用のある生薬の性は寒(涼)性であり、冷えの症状を改善する生薬の性は熱(温)性です。寒性涼性の生薬は体を冷やし、消炎・鎮静作用があり、熱性温性の生薬は体を温め、興奮作用があります。

生薬中薬)の性質と関連する病証
性質作用対象となる病証

寒/涼

熱を下げる。火邪を取り除く。毒素を取り除く。

熱証陽証陰虚証。

熱/温

体内を温める。寒邪を追い出す。陽を強める。

寒証陰証陽虚証。

熱を取り除き、内部を温める2つの作用をより穏やかに行う。

すべての病証。

 【補瀉】…  【潤燥】… 潤  【升降】… 升  【散収】… 散
【帰経】…肝・心・脾
帰経とは中薬が身体のどの部位(臓腑経絡)に作用するかを示すものです。

【薬味】…甘辛  まず脾に入ります。  次に肺に入ります。
※味とは中薬の味覚のことで「辛・酸・甘・鹸・苦・淡」の6種類に分かれます。この上位5つの味は五臓(内臓)とも関連があり、次のような性質があります。
生薬中薬)の味と関連する病証
 味作 用対象となる病証対象五臓

辛(辛味)

消散する/移動させる。体を温め、発散作用。

外証。風証。気滞証。血瘀証。

肺に作用。

酸(酸味)すっぱい。渋い。

縮小させる(収縮・固渋作用)。

虚に起因する発汗。虚に起因する出血。慢性的な下痢。尿失禁。

肝に作用。

甘(甘味)

補う。解毒する。軽減する。薬能の調整。緊張緩和・滋養強壮作用。

陰虚。陽虚。気虚。

脾に作用。

鹹(塩味)塩辛い。

軟化と排除。大腸を滑らかにする。しこりを和らげる軟化作用。

リンパ系その他のシステムが戦っているときの腫れ。

腎に作用。

苦(苦味)

上逆する気を戻す。湿邪を乾燥させる。気血の働きを活性化させる。熱をとって固める作用。

咳・嘔吐・停滞が原因の便秘。排尿障害。水湿証。肺気の停滞に起因する咳。血瘀証。

心に作用。

淡(淡味)

利尿。

水湿証。

【薬効】…補血作用  理血作用  月経調整作用  潤調作用  活血調経作用 

【薬理作用】…●芳香性です。冷え症の婦人を治す要薬です。
●強壮、鎮痛、鎮静、貧血、冷え症、婦人病。
●抗菌、鎮痛、抗炎症、循環促進、血中コレステロール値を下げる。肝臓の強壮、鎮静、子宮刺激、葉酸とビタミンB12が豊富です。

【用 途】…当帰のアルコールエキスは低濃度で家兎頸動脈血流を亢進、高濃度では逆に抑制、その水エキスは家兎に対して静注、経口のどちらでも眼圧、血圧を下げる。漢方において当帰を緑内障治療薬とする意味を実験的に証明した。その作用点は心臓あるいは血管側の末梢にあるものと推察される。 当帰が婦人の要薬という観点から、子宮およびその他の平滑筋に対する実験も行われている。当帰の水浸出液を家兎に静注すると、その子宮、小腸、膀胱、動脈等の平滑筋興奮作用がある。

【学 名】…Angelica acutiloba Kitagawa

【禁 忌】…妊娠中、下痢あるいは腹部膨満感がある場合は使用を避けること。

●日本薬局方
【出典】…神農本草経
【三品分類(中国古代の分類)】… 神農本草経や名医別録などでの生薬分類法
中品(保健薬)


 生薬の画像

【基原(素材)】…セリ科カラトウキの根です。

当帰


トウキは夏、多数の白花をつけます


当帰の植物写真


当帰の生薬写真


当帰の植物写真2



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 方剤リンク

本中薬(当帰)を使用している方剤へのリンクは次のとおりです。関連リンク


  関連処方当帰飲子 »
  関連処方当帰建中湯 »
  関連処方当帰芍薬散 »
  関連処方当帰湯 »
  関連処方帰耆建中湯 »
  関連処方温経湯 »
  関連処方温清飲 »
  関連処方乙字湯 »
  関連処方加味逍遙散 »
  関連処方帰脾湯 »
  関連処方芎帰膠艾湯 »
  関連処方五淋散 »
  関連処方柴胡清肝湯 »
  関連処方滋陰降火湯 »
  関連処方滋陰至宝湯 »
  関連処方紫雲膏 »
  関連処方七物降下湯 »
  関連処方四物湯 »
  関連処方十全大補湯 »
  関連処方潤腸湯 »
  関連処方消風散 »
  関連処方清肺湯 »
  関連処方続命湯 »


生薬 生薬は、薬草を現代医学により分析し、効果があると確認された有効成分を利用する薬です。 生薬のほとんどは「日本薬局方」に薬として載せられているので、医師が保険のきく薬として処方する場合もあります。


中薬・中成薬 中薬は、本場中国における漢方薬の呼び名です。薬草単体で使用するときを中薬、複数組み合わせるときは、方剤と呼び分けることもあります。
本来中薬は、患者個人の証に合わせて成分を調整して作るものですが、方剤の処方を前もって作成した錠剤や液剤が数多く発売されています。これらは、中成薬と呼ばれています。 従って、中国の中成薬と日本の漢方エキス剤は、ほぼ同様な医薬品といえます。


 詳 細

トウキ Angelica acutiloba Kitagawa は日本各地で栽培される多年草であり、江戸時代から栽培が始まったといわれます。

6~7月に多数の白い五弁花を複散形花序につけます。

薬用部位は根です。

トウキの葉柄が赤色を帯びるのに対して、変種のホッカイトウキ var.sugiyamae は緑色である点で区別されます。

中国で使用される当帰は別種の A.sinensis であり、同じ名前でありながら日中で別々の植物を使用している生薬のひとつです。


 備 考

補血作用血の機能を高め、身体の栄養分を補います。
行血作用…子宮を収縮して、瘀血(流れの滞った状態の血液)を排出したり、子宮の痙攣を抑えます。
潤腸作用腸内の水分不足を改善し、便秘に効果を発揮します。
調経作用…月経を調節します。
鎮静作用気持ちを静める作用です。

当帰はよく増血し、貧血からくるところの苦情をなくし、血液に関係する心・肝・脾を通る心経・肝経・脾経という経路に効く、ということを「能く諸血を領し、各其の当る所の経に帰する」というところから当帰の名を得たのである。
好いて好かれた二人の間でも、若妻に赤ちやんができたなら、ホルモンの分泌不良・貧血のために御主人へのサービスも不足しがちとなる。打開策は、まず、若妻は当帰を服用すること。当帰の服用でホルモンも適当、貧血も治る。サービスも充分。そこで御主人も楽しい我が家を放っておくものか。当帰(まさにかえるべし)となる。当帰は家庭円満の福の神である。


生薬陳列

 生薬の書物の歴史

1.【神農本草経】(西暦112年)
中医薬学の基礎となった書物です。植物薬252種、動物薬67種、鉱物薬46種の合計365種に関する効能と使用方法が記載されています。
神農本草経

神農神農:三皇五帝のひとりです。中国古代の伝説上の人といわれます。365種類の生薬について解説した『神農本草経』があり、薬性により上薬、中薬、下薬に分類されています。日本では、東京・お茶の水の湯島聖堂 »に祭られている神農像があり、毎年11月23日(勤労感謝の日)に祭祀が行われます。



2.【本草経集注】(西暦500年頃)
斉代の500年頃に著された陶弘景(とうこうけい)の『本草経集注(しっちゅう)』です。掲載する生薬の数は、『神農本草経』(112年)の2倍に増えました。 本草経集注(しっちゅう)
松溪論畫圖 仇英(吉林省博物館藏)
松溪論畫圖 仇英(吉林省博物館藏)

陶弘景(456~536年)は、中国南北朝時代(420~589年)の文人、思想家、医学者です。江蘇省句容県の人です。茅山という山中に隠棲し、陰陽五行、山川地理、天文気象にも精通しており、国の吉凶や、祭祀、討伐などの大事が起こると、朝廷が人を遣わして陶弘景に教えを請いました。
そのために山中宰相と呼ばれました。庭に松を植える風習は陶弘景からはじまり、松風の音をこよなく愛したものも陶弘景が最初です。
風が吹くと喜び勇んで庭に下り立ち、松風の音に耳をかたむける陶弘景の姿はまさに仙人として人々の目に映ったことでしょう。



3.【本草項目】(西暦1578年)
30年近い歳月を費やして明代の1578年に完成された李時珍(りじちん)の『本草項目』です。掲載する生薬の数は、約1900種に増えました。
『本草綱目』は、1590年代に金陵(南京)で出版され、その後も版を重ねました。わが国でも、徳川家康が愛読したほか、薬物学の基本文献として尊重され、小野蘭山陵『本草綱目啓蒙』など多くの注釈書、研究書が著されています。
本草綱目は日本などの周辺諸国のみならず、ラテン語などのヨーロッパ語にも訳されて、世界の博物学・本草学に大きな影響を与えています。
本草項目
儒者・林羅山(1583~1657年)の旧蔵書

李時珍 李時珍(1518~1593年)は、中国明時代(1368~1644年)の中国・明の医師で本草学者。中国本草学の集大成とも呼ぶべき『本草綱目』や奇経や脉診の解説書である『瀕湖脉学』、『奇経八脉考』を著した。
湖北省圻春県圻州鎮の医家の生まれです。科挙の郷試に失敗し、家にあって古来の漢方薬学書を研究しました。30歳頃からあきたらくなって各地を旅行し調査したり文献を集めたりはじめます。ついに自分の研究成果や新しい分類法を加え、30年の間に3度書き改めて、1578年<万暦6年>『本草綱目』を著して、中国本草学を確立させました。
関連処方李時珍、生家にて »



4.【中医臨床のための中薬学】(西暦1992年)
現在、私が使用している本草の辞典です。生薬の記載個数は、約2,700種に増えました。
神戸中医学研究会の編著です。
中医臨床のための中薬学


区切り
ハル薬局

【薬用部分】…根

 古 典

●咳逆上気を主り、瘟瘧寒熱の洗洗として皮膚に中る、婦人の漏下、絶子、諸悪瘡金瘡に之を煮飲す《神農本草経》
●元素曰く、頭は血を止め、尾は血を破り、身は血を和らげる。時珍曰く、上部を治するには頭を用い、中を治するには身を使い、下を治するには尾を用う《本草綱目》
●血を補い、燥を潤し、内寒を散じ、諸瘡瘍を主る《薬性提要》
●湿達せしめ、気血を調和す《古方薬品考》
●血滞し気逆するを主る《気血水薬徴》
●滋潤通和を主る《古方薬議》
●帰頭ハ補血シ、帰身ハ養血シ、帰尾ハ破血シ、全用スレバ活血スル
帰頭は頭(頭部・頸部・胸部を含む)を補い、帰身は身を補い、 帰尾は四肢を補う
血を補い血を和し、経を調え止痛、潤燥滑腸する
月経の不調、経閉の腹痛、の結聚、崩漏、血虚の頭痛、眩暈、痿痺、腸燥による難便、赤痢後重、癰疽瘡瘍、跌撲損傷を治す《中薬大辞典》


 成 分

ligustilide、safrol、butylidenephthalide、bergaptene、糖、ビタミン類などです。


道教・八卦 人参

当帰の植物写真

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