生薬解説木香もっこう

生薬解説 木香

木香 説明表示をクリック → 説明表示  いらっしゃいませ

中国における薬物の応用の歴史は非常に古く、独特の理論体系と応用形式をもつに至っており、現在では伝統的な使用薬物を「中薬」とよんでいます。

中薬では草根木皮といわれる植物薬が大多数を占めるところから、伝統的に薬物学のことを「本草学」と称しており、近年は「中薬学」と名づけています。

中薬学は、中薬の性味・帰経・効能・応用・炮製・基原などの知識と経験に関する一学科であり、中医学における治療の重要な手段のひとつとして不可分の構成部分をなしています。

【大分類】理気薬(行気薬)…気の運行を調節する中薬です。

キャッチコピー気分を落ち着け、痛みを止める。

【別 名】…雲木香、川木香

 概 要

●日本でも古くから薬用以外にも薫香料として用いられてきた木香は、芳香性の植物生薬で、気のめぐりを良くする行気薬として知られています。
●気滞による肩こりや高血圧、胃炎や腸炎などの消化器系の疾患、月経前症候群や月経痛などの婦人科系の症状に効果的です。


 生薬生産地

中国地図 【中国産地】…四川省、雲南省、湖北省、湖南省、広東省



 伝統的薬能

薬物の治療効果と密接に関係する薬性理論(四気五味・昇降浮沈・帰経・有毒と無毒・配合・禁忌)の柱となるのが次に掲げる「性・味・帰経」です。

【温寒】…
※性:中薬はその性質によって「寒・涼・平・熱・温」に分かれます。例えぱ、患者の熱を抑える作用のある生薬の性は寒(涼)性であり、冷えの症状を改善する生薬の性は熱(温)性です。寒性涼性の生薬は体を冷やし、消炎・鎮静作用があり、熱性温性の生薬は体を温め、興奮作用があります。

生薬中薬)の性質と関連する病証
性質作用対象となる病証

寒/涼

熱を下げる。火邪を取り除く。毒素を取り除く。

熱証陽証陰虚証。

熱/温

体内を温める。寒邪を追い出す。陽を強める。

寒証陰証陽虚証。

熱を取り除き、内部を温める2つの作用をより穏やかに行う。

すべての病証。

 【補瀉】… 補  【潤燥】… 燥  【升降】… 中  【散収】…
【帰経】…肺・肝・脾
帰経とは中薬が身体のどの部位(臓腑経絡)に作用するかを示すものです。

【薬味】…辛  まず肺に入ります。
※味とは中薬の味覚のことで「辛・酸・甘・鹸・苦・淡」の6種類に分かれます。この上位5つの味は五臓(内臓)とも関連があり、次のような性質があります。
生薬中薬)の味と関連する病証
 味作 用対象となる病証対象五臓

辛(辛味)

消散する/移動させる。体を温め、発散作用。

外証。風証。気滞証。血瘀証。

肺に作用。

酸(酸味)すっぱい。渋い。

縮小させる(収縮・固渋作用)。

虚に起因する発汗。虚に起因する出血。慢性的な下痢。尿失禁。

肝に作用。

甘(甘味)

補う。解毒する。軽減する。薬能の調整。緊張緩和・滋養強壮作用。

陰虚。陽虚。気虚。

脾に作用。

鹹(塩味)塩辛い。

軟化と排除。大腸を滑らかにする。しこりを和らげる軟化作用。

リンパ系その他のシステムが戦っているときの腫れ。

腎に作用。

苦(苦味)

上逆する気を戻す。湿邪を乾燥させる。気血の働きを活性化させる。熱をとって固める作用。

咳・嘔吐・停滞が原因の便秘。排尿障害。水湿証。肺気の停滞に起因する咳。血瘀証。

心に作用。

淡(淡味)

利尿。

水湿証。

【薬効】…理気作用  健胃作用  整腸作用  止痛作用 

【薬理作用】…芳香性があります。中枢抑制作用、抗炎症作用、抗消化性潰瘍作用、 抗コレステロール血症作用

【用 途】…健胃薬として嘔吐、下痢、腹痛などの胃腸病に応用する。

●日本薬局方
【出典】…神農本草経
【三品分類(中国古代の分類)】… 神農本草経や名医別録などでの生薬分類法
上品(不老長生薬)


 生薬の画像

【基原(素材)】…キク科モッコウの根です。

木香の花


木香の植物画像



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 方剤リンク

本中薬(木香)を使用している方剤へのリンクは次のとおりです。関連リンク


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生薬 生薬は、薬草を現代医学により分析し、効果があると確認された有効成分を利用する薬です。 生薬のほとんどは「日本薬局方」に薬として載せられているので、医師が保険のきく薬として処方する場合もあります。


中薬・中成薬 中薬は、本場中国における漢方薬の呼び名です。薬草単体で使用するときを中薬、複数組み合わせるときは、方剤と呼び分けることもあります。
本来中薬は、患者個人の証に合わせて成分を調整して作るものですが、方剤の処方を前もって作成した錠剤や液剤が数多く発売されています。これらは、中成薬と呼ばれています。 従って、中国の中成薬と日本の漢方エキス剤は、ほぼ同様な医薬品といえます。


 詳 細

古くから薬用・香料に使用、密のような香りが特徴の生薬

●キク科の多年草の木香は、インドの北西部が原産地です。標高2000メートル以上の高山地帯に自生しており、高さが1メートル以上にもなる大型の植物です。葉は膜質の広楕円形で、7月から9月にかけてアザミによく似た暗紫色の頭花をつけます。
●生薬として使われるのは、黄褐色をした円柱形の根で、霜が降りる(10月中旬頃)前に、根部を掘り起こして採取し、ひげ根や残茎を除去した後、きれいに土砂を洗い流します。その後、6~12センチメートルの長さに切り、乾燥させて使用します。
●原産地のインドから中国に渡来した木香は、現在、雲南省や四川省、湖北省、湖南省、広東省などの地域で栽培されています。特に木香の産地として有名なのが、雲南省と四川省で、それぞれの地名を冠に「雲木香」、「川木香」と呼ばれています。
●また、中国では木香が蜜のような香気がすることから「蜜香」、木と母の音が同じことから「母香」とも呼ばれています。
●木香が日本へ渡来したのは古く、飛鳥時代後期から奈良時代初期頃と推定されています。奈良東大寺にある「正倉院」には、聖武天皇の遺愛品をはじめ東大寺の寺宝や経巻、文書など、七-八世紀の東洋文化の粋九〇〇〇点余が収められていますが、この宝物の中に木香が含まれています。これは、現存している日本最古のものと考えられています。
●東大寺は、天皇の勅命により民衆に施薬をする役目を担っていたことから、木香以外にも当時使用されていた香附子や白檀、窮香、丁香などの香薬が保存されています。
●日本では、木香は健胃薬として使用される他、精神安定や解毒にも用いられてきました。また、昔は衣服に香りを焚き付ける賦香や、虫除けのための防香にも利用されていました。他にも香りを聞く香道の材料として、丁子やカルダモンなどと共に「香草木」に分類され、使用されています。
●中国や日本だけでなく、隣国の韓国でも薬用や香料として使われ、原産地のインドでは、伝統医学である「アユル・ヴェータ」の生薬に利用されています。

気のめぐりを促進する行気薬、気滞による諸症状を改善する

●木香の性質は「温性」で、体を温めて新陳代謝を促進する働きがあります。主に脾や胃、大腸などに帰経し、痛みを止め、消化器系の機能を整える「調中・止痛」作用を持っています。また、芳香性が強い生薬のため、滞っている気(エネルギー)の流れをスムーズにする「行気」作用があり、気滞による諸症状を改善します。
●臨床応用としては、肩こりや頭痛、高血圧、冷え性、微小循環障害など、ストレスや運動不足などが原因で、気の流れが停滞したために血液循環も悪くなった「気滞血瘀」(実証タイプ)の諸症状によく用いられます。この場合は、血行を促進する活血作用がある丹参や紅花などの生薬と併用します。気のめぐりを促進して血液をサラサラにする「冠心二号方」にも配合されています。
●胃炎や胃潰瘍、腸炎などで、気が不足したために胃腸の働きが低下した「脾胃気虚気滞」(虚証タイプ)による症状にも効果的で、食欲不振や疲れ、消化不良、胃脱腸脹痛、下痢などには、健脾益気作用がある人参や白朮、茯苓などと併用して用いられます。代表的な中成薬に「香砂六君子湯」「帰脾湯」などがあります。
●気のめぐりが低下したことが原因で、「肝」の働きが低下した「気滞肝欝」による胸脇脹満や腹脹腹痛、乳房脹痛、イライラやため息、吐き気、生理前症候群などにも使用されます。こうした症状には、理気止痛作用がある延胡索、陳皮、厚朴などと配合した「舒肝丸」などが処方されます。
●月経不順や月経痛などには、木香の他に、養血活血調経作用のある当帰、川芎などの生薬を配合した「芎帰調血飲第一加減」などが用いられます。


生薬陳列

 生薬の書物の歴史

1.【神農本草経】(西暦112年)
中医薬学の基礎となった書物です。植物薬252種、動物薬67種、鉱物薬46種の合計365種に関する効能と使用方法が記載されています。
神農本草経

神農神農:三皇五帝のひとりです。中国古代の伝説上の人といわれます。365種類の生薬について解説した『神農本草経』があり、薬性により上薬、中薬、下薬に分類されています。日本では、東京・お茶の水の湯島聖堂 »に祭られている神農像があり、毎年11月23日(勤労感謝の日)に祭祀が行われます。



2.【本草経集注】(西暦500年頃)
斉代の500年頃に著された陶弘景(とうこうけい)の『本草経集注(しっちゅう)』です。掲載する生薬の数は、『神農本草経』(112年)の2倍に増えました。 本草経集注(しっちゅう)
松溪論畫圖 仇英(吉林省博物館藏)
松溪論畫圖 仇英(吉林省博物館藏)

陶弘景(456~536年)は、中国南北朝時代(420~589年)の文人、思想家、医学者です。江蘇省句容県の人です。茅山という山中に隠棲し、陰陽五行、山川地理、天文気象にも精通しており、国の吉凶や、祭祀、討伐などの大事が起こると、朝廷が人を遣わして陶弘景に教えを請いました。
そのために山中宰相と呼ばれました。庭に松を植える風習は陶弘景からはじまり、松風の音をこよなく愛したものも陶弘景が最初です。
風が吹くと喜び勇んで庭に下り立ち、松風の音に耳をかたむける陶弘景の姿はまさに仙人として人々の目に映ったことでしょう。



3.【本草項目】(西暦1578年)
30年近い歳月を費やして明代の1578年に完成された李時珍(りじちん)の『本草項目』です。掲載する生薬の数は、約1900種に増えました。
『本草綱目』は、1590年代に金陵(南京)で出版され、その後も版を重ねました。わが国でも、徳川家康が愛読したほか、薬物学の基本文献として尊重され、小野蘭山陵『本草綱目啓蒙』など多くの注釈書、研究書が著されています。
本草綱目は日本などの周辺諸国のみならず、ラテン語などのヨーロッパ語にも訳されて、世界の博物学・本草学に大きな影響を与えています。
本草項目
儒者・林羅山(1583~1657年)の旧蔵書

李時珍 李時珍(1518~1593年)は、中国明時代(1368~1644年)の中国・明の医師で本草学者。中国本草学の集大成とも呼ぶべき『本草綱目』や奇経や脉診の解説書である『瀕湖脉学』、『奇経八脉考』を著した。
湖北省圻春県圻州鎮の医家の生まれです。科挙の郷試に失敗し、家にあって古来の漢方薬学書を研究しました。30歳頃からあきたらくなって各地を旅行し調査したり文献を集めたりはじめます。ついに自分の研究成果や新しい分類法を加え、30年の間に3度書き改めて、1578年<万暦6年>『本草綱目』を著して、中国本草学を確立させました。
関連処方李時珍、生家にて »



4.【中医臨床のための中薬学】(西暦1992年)
現在、私が使用している本草の辞典です。生薬の記載個数は、約2,700種に増えました。
神戸中医学研究会の編著です。
中医臨床のための中薬学


区切り
ハル薬局

【薬用部分】…根

 成 分

精油成分としてサウスレアラクトン、アルカロイドとしてサウスリン


道教・八卦 人参

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