糖尿病の人は感染症にかかりやすく悪化しやすい
糖尿病の人は、肺炎や膀胱炎、腎孟炎、皮膚炎、歯肉炎、あるいはかぜといった、感染症にかかりやすいことが知られています。
また、感染症が急速に重症化することも多く、回復には時間がかかります。
そして、感染症にかかると血糖値が普段以上に上昇するので、コントロールが悪化し、糖尿病そのものにも影響がでてきます。
概 要
感染症に注意が必要な5つの理由
糖尿病の人が感染症にかかりやすく悪化しやすいのはなぜでしょう。
人間のからだは、体内に侵入しようとするウイルスや細菌と常に戦っています。
これを感染防御機構といいますが、糖尿病では次のことから、感染防御機構が容易に破綻してしまうのです。
①好中球の貰食機能の低下
好中球は白血球の成分のひとつで、体内にウイルスや細菌が侵入すると、それを取り囲んで食い殺します(貧食)。
血糖値が高くなると、この機能が低下します。
感染後に糖尿病を発症するリスクも
子どもを対象とした研究で、新型コロナにかかると重度の糖尿病が増加するという報告がありました。これはコロナ診療医にとってショッキングな報告でした。
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)における調査でも、18歳未満の新型コロナでは感染1か月以降の糖尿病発症リスクが高くなることが分かりました。新型コロナ以外の呼吸器感染症ではこうしたリスク増加がみられなかったことから、このウイルス特有の後遺症と言えるのかもしれません。
大人ではどうでしょうか。平均年齢約60歳の集団をみたアメリカの研究があります。これによると、新型コロナ感染後12か月時点で糖尿病の発症リスクが1.4倍に増加することが分かりました。また、新型コロナの重症度が高いほど、糖尿病リスクが高くなることも示されています。
②免疫反応の低下
免疫反応とは、一度感染した病原体に対し、体内でそれに対する抗体が作られ、次に同じ病原体がからだに侵入しようとしたときに、それを防ぐように働く仕組みのことです。
高血糖では、この免疫反応も弱くなっています。
③血流が悪<なる
高血糖では、細い血管の血液の流れが悪くなります。
このような状態では、酸素や栄養が十分に行き渡らず、細胞の働きが低下したり、白血球が感染部位に到達しにくくなって、感染しやすくなります。
内臓の血流も悪くなっているので、肺炎や胆のう炎、膀胱炎、腎炎など、内臓の病気も起こりやすくなります。
さらに、感染で受けたダメージの回復にも時間がかかりますし、抗生物質などの薬物治療でも、薬が感染部位に到達しにくいため、薬の効果が弱くなります。
④神経障害が感染・悪化の一因に
糖尿病の合併症の神経障害があると、内臓の活動が乱れやすく、膀胱炎や胆のう炎の原因になります。
また、痛みを感じる神経も障害されるので、症状が現れにくく、感染症に気付くのが遅れ、その間に病気が進行してしまいます。
⑤血糖値がより上昇する
一度細菌類に感染すると、インスリンを効きにくくする物質(サイトカインなど)が多くなって、血楓直は普段よりも高くなります。
このことが糖尿病の状態をより悪くしてしまい、感染症をさらに進行させてしまうという悪循環が生まれます。
主症状
おもな感染症の症状と対策
糖尿病の人は、あらゆる感染症にかかりやすくなっているといえますが、とくに次のような感染症に注意してください。
①尿路感染症
女性に多い感染症です。通常は尿道から感染し、膀胱炎、腎孟炎、腎孟腎炎と重症化していきます。合併症の糖尿病性腎症がある場合、その進行を加速してしまうこともあります。
陰部のかゆみや排尿痛、残尿感、尿が濁る、トイレが近くなる(頻尿)など。腎孟炎、腎孟腎炎に進行すると、腰痛、発熱なども。
水分を十分に摂取する。尿意を我慢しない。膀胱機能障害がある場合は、時間を決めて定期的にトイレに行く。)
陰部の清潔を心掛ける。女性はなるべく温水洗鞭座を使用したり、鞭後のトイレットペーパーの使い方を注意する(前から後ろへ拭く)。
〔SGLT2阻害薬を処方されている人へ〕
新しい糖尿病薬のSGLT2(sodium glucosecotransporter-2)阻害薬を服用すると尿糖が血糖と関係して増加します。このため陰部に炎症を起こしやすくなります。
SGLT2阻害薬を処方されている人は陰部を常に清潔にするように心掛けてください。
また陰部のかゆみを感じたなら主治医に伝えてください。
②上気道炎・肺炎、結核
上気道炎とは鼻やのどの炎症で、いわゆるかぜのことです。かぜをこじらすと、気管支炎、肺炎を起こすことがあります。
結核は、かつて長い間、死亡原因のトップだった病気です。
現在は結核で亡くなる人は少なくなりましたが、患者数自体はあまり減っておらず、油断できません。
●症状
主にかぜの諸症状。感染症が重症になるほどひどくなり、胸痛、呼吸困難などが現れる。
結核はかぜに似た症状のほか、喀血など。ただし、これらの症状が出るのは発病後かなり経過してからです。
●対策
こまめにうがいをする。
うがい薬を用いればなお良い。
インフルエンザのシーズン前には、なるべく予防接種を受ける。
かぜだと思っても症状をあまくみない。かぜより重い病気にかかっている可能性もあるので、医師の指示に従い、必要ならレントゲン検査などを受ける。
歯周病
歯周病は、口の中の細菌による歯茎の慢性感染症です。
糖尿病の人は歯周病になりやすいばかりでなく、歯周病のために血糖コントロールが改善しにくくなってしまいます。
●症状
口臭や歯茎が腫れたりすることがあるが、虫歯と違って痛みはない。
徐々に歯茎の骨が溶けてゆき、支えを失った歯は揺れ出し、やがて抜け落ちます。
●対策
毎日、歯をしっかり磨き、垂歯と歯の間は歯間ブラシや糸ようじを使って掃除する。
定期的に歯科を受診する。
皮膚感染症・足病変
白癬(水虫)やカンジダ症などが、全身に起きやすく、とくに唇や陰部などの皮膚の薄い部分に出てきます。
また、足の水虫が潰瘍へと進行し、壊疽(えそ)の原因になることもあります。
●症状
皮膚のただれ、かゆみ、痛み、できもの、口内炎、水虫など。水虫は、皮膚だけでなく、爪にも広がってきます。
●対策
からだを清潔にしておく。毎日入浴する。
また、足の手入れを習慣づけ、小さな傷や水虫も早めに治療する。
胆のう炎
胆のう炎は、胆石があると起きやすい病気です。
糖尿病の人は胆石を抱えている人が多く、また、神轡轄により胆汁が滞りやすいことから、胆のう炎を発症しやすくなっています。
●症状
右上腹部の痛み、黄疸、発熱など。
●対策
脂肪分の多い食事を控え目にする、大食をしない(胆石ができる原因となったり、すでにある胆石を刺激し、胆のう炎を起こす)。
そのほかの感染症
頻度はまれですが、糖尿病の人に特徴的な感染症として、悪性外耳道炎、鼻脳ムコール症、非クロストリジウム性ガス壊疽、気腫性胆のう炎などがあります。
自覚症状が現れにくい病気で、進行すると治療が難しくなります。
治則説明
健康的な生活で感染症を予防しましょう
感染症予防の基本は、できるだけ健康的な生活を維持し、ふだんから細菌類に対する抵抗力をつけておくことです。
例えば、からだをよく動かすこと。運動により血流がよくなると、細胞の修復機能が高まり、抵抗力が強くなります。食生活については、指示エネルギー量を守ることはもちろんですが、栄養バランスにも気を配り、正しい食事療法をめざしましょう。
そして、最も重要なのは血糖コントロール。
感染症のかかりやすさも、血糖値の高さと、血糖値が高かった期間の長さに影響されます。
より良い血糖コントロールを続けることが、感染症予防に一番効果があります。